
直腸検査
馬や牛などの大動物ではしばしば直腸検査が行われます。
直腸そのものを検査するのではなく、肛門から手を入れて、直腸ごしに腹腔内のさまざまな臓器を触る検査のことです。
検査に必要な道具は下の画像の直検手袋と呼ばれる肩まである長い手袋と、グリセリンやせっけんなどの潤滑剤です。

このように、特別な機械を必要としないのが直腸検査のメリットです。
検査を実施するにあたって、
検査者は直腸を傷つけ、穿孔することが無いよう、爪を短く切っておく必要があります。
また、検査をする馬は枠馬に入れ、検査者や馬を引く人が安全な状況を作ることも必要です。
枠馬に入れられない場合は、馬房の馬栓棒や扉を使い、蹴られないようにします。
そして、検査中も馬の様子に気をつけ、大きな動きがあった場合に手を抜いたり、身の安全を確保したりする必要があります。
人や馬の安全が確保できない場合は無理に検査を実施するべきではありません。
直腸検査では、膀胱、牝馬の子宮・卵巣、牡馬の鼠径管や尿道、脾臓の尾側、左腎臓、腸間膜根部、盲腸底、小大結腸の一部、小腸の一部、骨盤などを触知することができます。
牛や豚では子宮や卵巣を触知することができるため、妊娠診断や人工授精に使われます。
この時、利き手で人工授精などの操作を同時に行うことが多いため、直腸には利き手とは逆の手を入れることが多いです。
繁殖牝馬でも同様に妊娠診断として直腸検査を実施します。
今回は、疝痛(腹痛、ハライタ)を起こした症例の直腸検査についてお話ししたいと思います。
疝痛とは様々な要因で腹腔内臓器(おもに腸管)に疼痛を生じ、激しい腹痛を引き起こした状態のことです。
直腸検査は、このような疝痛馬の腹腔内の状況を把握するための重要な検査となります。
画像は検査者から見た、馬の腹部臓器の位置関係の模式図です。

(Equine EMERGENCIES Treatment and Procedures Fourth Edition p187より引用)
画像の臓器は、左上が脾臓(青色)と腎臓(赤色)、左下が左側結腸、真ん中が小結腸、右下が盲腸を示しています。
疝痛馬の直腸検査では、腸管、臓器の位置がおかしくないか?
腸管にガスによる拡張がないか?
腸の内容物の貯留、量と硬さはどうか?
が重要となってきます。
また、正常な馬では骨盤を触ることができますが、腸管に異常がある場合、骨盤が触知できなくなるため、これも重要な所見となります。
たとえば盲腸鼓脹症では、馬の右腹側にガスで拡張した盲腸と緊張した腸ヒモが触知されます。
このような鼓脹症や便秘の場合、治療法としては、引き馬運動やウォーキングマシン運動を行うことで腸の蠕動運動を促し、ガスや糞便を排出させます。
このとき同時にフルニキシンメグルミンなどの鎮痛剤で疼痛の管理を行うことがあります。
また、大結腸背側変位では直腸検査で、正常では脾臓と腎臓の下に位置する左側結腸が、脾臓と腎臓の間に変位し、嵌入しているのを触知できます。
このような腸管の変位は運動や鎮痛剤では管理できないため、二次診療施設での手術が必要になります。
これらの検査は検査者の手の感覚がすべてであるため、検査者の技量が必要です。
また、疝痛馬では、直腸検査だけでなく、馬の食事や悪癖、体調などの問診や、聴診、血液検査など、さまざまな検査を実施したうえで、診断、治療を行います。
これについても、またいつか書きたい思っています。
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NM