ブドウ膜炎
ブドウ膜とは、虹彩・毛様体・脈絡膜を総称したものです。
ここに炎症が起きることを、ブドウ膜炎といいます。
競走馬の眼の疾患で、もっともよく見られるのは創傷性角膜炎です。
眼がショボショボしている、目脂や涙が出ている、等の稟告により診療することが多いです。
通常フルオレセイン染色を行い、抗生物質の点眼、角膜表面に傷があれば血清点眼液の投与などの治療で
数日で症状は改善することが多いです。
ですが、角膜表面に傷が無く、点眼を続けても改善しない、角膜混濁や血管新生が進行する、といった場合には
ブドウ膜炎を疑います。
ブドウ膜炎は創傷性角膜炎や打撲から二次的に起こることもありますが、寄生虫や、細菌やウイルス感染などの免疫介在性による場合もあります。
今回の症例は、初診時は眼の開きが悪く、外眼角の角膜混濁がみられました。フルオレセイン染色は陰性、角膜に傷はみられませんでした。
2日目からは縮瞳もみられました。
抗生物質やアトロピン点眼、疼痛管理のため消炎剤の全身投与を開始しましたが、数日継続しても症状は改善せず、
眼の開きが悪化し、外眼角に肉様の浸潤がみられました。
ブドウ膜炎と診断。ステロイド点眼も開始し、一時は症状が改善しましたが、
ステロイド点眼を止めると悪化したり、また日によって波があるなど、なかなか気の抜けない状態が続きました。
縮瞳がみられます。
それでも少しずつ良化していっていましたが、発症から約3か月後には再度悪化し、
内眼角に膿瘍と思われるものが出現しました。
角膜混濁、血管新生もみられるようになったため、
ステロイド点眼を中止し、抗生剤の全身投与を行ったところ
数日でこれらの症状は改善しました。
その後ステロイド点眼を再開し、縮瞳はみられなくなり、徐々に症状は改善。
発症から約4か月後の様子。
瘢痕は残っていますが、眼の開きは正常、角膜もクリアな状態です。
ここでようやく治療終了となりました。
ブドウ膜炎の原因は、不明であることが多いそうです。
発症が夏であったことや、この牧場が山の近くにあり、野生動物と接触しうることから
レプトスピラ感染したことによる免疫反応で発症した可能性を考え、検査に出したのですが、
結果は陰性でした。
ただし陰性であったとしても、感染の可能性を完全には否定できないようです。
ブドウ膜炎は、症状が改善してもその後発症を繰り返すことが多く、かつてはこれが月の満ち欠けに関連すると考えられたことから、
「月盲」と呼ばれることもあります。
症状が改善したからといって、急に点眼を止めると、また悪化してしまうこともあるそうです。
また、この疾病は、失明の原因となることも多いとされています。
この馬は治療の際もおとなしく、また牧場もしっかりと点眼をしてくださっていたため
無事寛解し、先日のレースで勝つことができました。
今後も再発に注意しながら、活躍してくれればと思います。
空調管理の行き届いた室内が大好きなメッシ。
N