第一指骨骨折
「障害飛越した後に跛行し、右前肢が着けなくなった」という稟告で往診した馬。
確かに負重ができず、蹄尖のみで着地していました。
触診しましたが、屈曲痛や圧痛は無く、蹄に熱感などもありません。
ただ、球節の関節液がやや増量していることから、レントゲンを撮ってみました。
特に異常はみられません。
以前から蟻洞があるとのことだったため、蹄葉炎の可能性も疑い、
念のため蹄もレントゲンを撮ってみましょう、ということになりました。
鎮静をかけて、負重させて撮ったところ、
第一指骨に骨折線がみられました。
このように、骨折して間もないときには骨折線がレントゲン上で写らないこともあり、
負重させて初めて写ったり、数週間後の再検査でようやく発見できることもあるようです。
通常、第一指骨骨折は手術が推奨されます。
このような亀裂骨折の場合はボルトを入れるのですが、この馬は20歳の乗馬です。
年齢的に全身麻酔に耐えられるのか、手術する予算や施設はあるか、等の事柄を考え、
今回は保存療法を選択することになりました。
保存療法では、キャスト(ギプス)を巻いて固定し、患部に負重しないようにすることで、骨折線が伸びたり、離開することを防ぎます。
キャスト内の蹄底には、ヒールブロックを入れることで、つま先立ちの状態になっています。
この状態で数か月管理し、骨折線が埋まるのを待つことになります。
ボルト固定していない分、治癒には時間もかかりますし、悪化して骨折線が広がってしまう可能性もあります。
そのため定期的にキャストを外し、レントゲン検査を行い、経過を確認していきます。
受傷約1か月後のチェック。
痛みはかなり取れており、キャスト固定しているため歩きづらそうではありますが、
馬房からゆっくり蹄洗場へ歩いてくる分には、特に苦痛は感じていなさそうです。
キャストカッターでキャストを2か所切り、そこからぱかっと開いてキャストを外します。
これがギプスカッターです。
レントゲンを撮ったところ、
骨折線が伸びてしまっています。
負重することにより、受傷直後よりも離開してしまったようです。
また、このときはヒールブロックが少し低かったようなので、高いものに変更しました。
再度キャストを巻きます。
受傷約1.5か月後の検査。
骨折線は少し薄くなっているようです。
骨折等で四肢への負重が正常でなくなったとき、気を付けなければいけないのは患肢以外の蹄葉炎です。
多少の浮腫はみられますが、蹄に目立った熱感はありませんでした。
そして先日、受傷約2か月後の検査を行いました。
浮腫や軟部組織の腫脹はみられますが、骨折線は明らかに薄くなっています。
ただし、横から見ると骨折部位付近に、骨膜増生がみられます。
骨折の治癒過程では、骨膜の増生はどうしても避けられないのですが、
これが関節に影響してしまうと、予後にも関わってくるため注意が必要です。
この馬は、競技復帰することはなく、この後は引退する予定なのだそうです。
そのため輸送に耐えられる状態になり次第、繋養先の牧場に移動します。
今後も油断することなく、経過を見ていこうと思います。
今日は一段と可愛いメッシ。
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