篩骨血腫について
競走馬でみられる鼻血について、
以前 最も一般的な運動誘発性肺出血のお話をしましたが、
今日は別の一因、篩骨血腫についてのお話です。
ある時「馬房内で鼻血でてたんだけど、まあどこかにぶつけたのかな。」と相談を受けました。
その馬は中央から地方に転厩するタイミングで、
調教はお休みして休養していた、8歳のサラ牡馬でした。
念のため内視鏡検査をすると、鼻腔内にこのようなものを発見、
他の部分も確認しましたが他に異常は見られず、ここから出血しているようです。
その後経過を追っていくと、
鼻出血を再発したり、
少し時間をおいて内視鏡で見ても同じ場所に同じような組織ができていたりして、
最終的に篩骨血腫と診断をしました。
篩骨血腫とは、鼻腔や副鼻腔にできる非腫瘍性の血腫です。
性差は無い、もしくはホルモンの影響があるのかやや 牡の方が多いとされ、
また若齢の馬でもみられるものの一般的には年齢が高い馬で多くみられます。
発生のメカニズムとしては、
鼻甲介内の粘膜下層で繰り返し出血がおきることで、
周辺の軟部組織や骨が壊されていって、徐々に血腫が大きくなっていきます。
そのため、片側の鼻腔内だけで収まることもあれば、
前頭洞や上顎洞、反対側の鼻腔に広がっていくこともあります。
一般的な症状は、断続的に片側性におこる中程度の鼻出血です。
他に、異常な呼吸音が発生するケース、両側性に鼻出血が見られるケース、
また血腫が骨にまで広がっている場合は、顔の一部が腫れる、頭を振る、発咳、流涎など様々な症状がみられることもあるそうです。
診断は、臨床症状や病歴と合わせて、内視鏡検査が用いられます。
黄緑色や赤紫色の腫瘤として観察されることが多いです。
内視鏡検査で見える腫瘤は一部で、反対側まで広がっていることもあるため、
片側性の鼻出血であっても反対側の鼻腔もチェックした方が良いとされます。
またX線検査を併用するのも有効です。
競馬場ではレースで鼻出血が確認されると、
一定期間レースに出ることが出来ない規則があります。
篩骨血腫では繰り返し鼻出血がおきるため、
そういった意味でも、やはり治療が必要になってきます。
外科的に切除したりレーザーを用いた治療法もあるそうですが、
現場で行う方法として一般的なのが、ホルマリン注入です。
立位・鎮静下で、内視鏡を用いて、
大体2-4週間間隔でホルマリン注入を行ないます。
写真は、投薬カテーテルを用いてホルマリン注入を行なっているところです。
繰り返し治療することによって腫瘤が小さくなっていく効果が期待できますが、
特に病変が広範囲に広がっているケースではホルマリン注入によるリスクがあったり、
治療後も再発もが起こり得ることは、認識しておく必要があります。
冒頭で出てきた相談を受けた馬は、一度ホルマリン注入したのですが、
直後に移動してしまい、継続治療は出来なかったのですが、
結局一度地方のレースで走って、そのまま引退となったようでした。
実際の現場では、内視鏡検査をしないで
現場で簡単に鼻出血の判断がされている場面に遭遇することが良くあるのですが、
やはり色々な可能性を考えて個々で丁寧に対応して行く必要があると思います。
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