胃潰瘍治療薬_プロトンポンプ阻害薬について
「この馬は食いが悪いから、胃が悪いのかな。」
「競走馬の9割には胃潰瘍があるんだよね。」
獣医さんでなくとも 馬に携わる人なら こんな会話が当たり前にされる位、
もはや常識(?)となった馬の胃潰瘍です。
胃潰瘍については、以前のこちらの記事でもお話がありましたが、
今日はその治療薬であるプロトンポンプ阻害薬について、
改めて考えてみたいと思います。
馬の胃は、容量は8-15Lで、体の左側に位置しており、
内側の粘膜はヒダ状縁と呼ばれる構造を境に、
腺部と無腺部に分かれています。
【画像:新編 家畜比較解剖図説 上巻(第1版)P.231より】
腺部の粘膜には 胃液を分泌する細胞
(主細胞・壁細胞・副細胞の3種類)が存在しており、
その内の壁細胞から胃酸が分泌されます。
胃酸分泌のメカニズムは、
まずガストリン・アセチルコリン・ヒスタミンという神経伝達物質が
壁細胞のそれぞれの受容体に結合すると、
K+を取り込んでH+を放出する
H+, K+ATPase(=プロトンポンプ)が活性化され、
最終的に胃酸が産生・分泌されます。
胃薬には様々な種類がありますが、
この最終段階を担うプロトンポンプを阻害して胃酸分泌を抑制する薬が、
プロトンポンプ阻害薬 Proton Pump Inhibitor(:PPI)です。
そしてプロトンポンプ阻害薬の中で、
馬で使われているのが オメプラゾールです。
商品としては、
ガストロガードやOmoguard(オモガード)の名前で販売されているので、
商品名を聞くと ご存知の方も多いのではないでしょうか。
次にこの薬の使い方について、考えてみたいと思います。
以前「強い運動した後に一回あげたから、それで終わり!」
という単回での投与の仕方をされている方がいました。
確かに馬に使うオメプラゾールは 決して安価な薬ではないので、
治療費を抑えたい事情はあるのかもしれませんが…
そもそもプロトンポンプの阻害は不可逆性に起こる、
つまり一度阻害されたプロトンポンプは修復しないのですが、
時間が経つと新たなプロトンポンプが出来て、
再び胃酸が分泌されるようになります。
そのため効果を得るには、単回投与ではなく、
連続して投与することが必要です。
またどのタイミングで与えるかについて、
胃潰瘍の程度に関わらず 投与回数は一日一回で良いのですが、
できるだけ同じ時間帯にあげるようにすることや、
また飼料が入った状態の口に 薬を入れると
馬が薬を一緒に吐き出してしまうことがあるため、
そういった点にも注意することが必要です。
ちなみに馬ではオメプラゾールが使われていますが、
人の医療では プロトンポンプ阻害薬の薬物代謝酵素の研究や、
新しい世代の薬が使用されていたりするそうです。
馬の胃潰瘍はある意味では職業病というか、
無くすことはできない疾患だと思いますので、
今後さらに新しい馬の胃潰瘍治療薬が出てくるのかも しれませんね!
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