熱発
暖かくなったかと思えば、ここ二、三日、また肌寒い気温となっていますね。
こんな季節の変わり目には、馬も人間と同様に、体調を崩すことが増えてきます。
多少熱が高いけど元気で食欲もある、という場合には抗生剤の投与と、輸液などの対症療法で良くなることが多いのですが、
ひどい下痢をしている場合や、発咳などの呼吸器症状が出ている場合には、腸炎や肺炎の可能性も考えなくてはいけません。
ちょっと心配だな、と思ったら血液検査をして、白血球の上昇や、SAAの上昇がないか、などといったこともチェックします。
聴診では心拍や腸蠕動音、肺雑音などを確認し、全身状態を把握します。
この馬は体温が39.3℃と高く、食欲はありますが軟便をしていました。
血液検査もしましたが大きな問題無し。そのため輸液に解熱剤・栄養剤を入れた対症療法と、免疫・体力の低下による細菌の二次感染を防ぐため、抗生剤を投与しました。
そして競走馬でよく問題となるのが、「輸送熱」です。
競走馬は生産牧場から育成牧場、トレセン、競馬場へと、度々長距離移動をします。
また、春になると、2歳馬が北海道から本州にやって来ます。
しかしそういった長距離輸送で、体調を崩し、熱発する馬もいます。
これが輸送熱です。馬だけでなく、牛でも問題となっているようです。
症状が重くなると、熱発だけでなく、発咳や鼻漏といった呼吸器症状がみられ、その場合、肺炎を発症している可能性が高くなります。
輸送熱の原因としては、
・輸送によるストレス→ストレスホルモンの増加
・馬運車内の暑熱
・排泄物から生じるアンモニアや、埃を吸気してしまうこと
・頭を挙上したまま繋がれることにより、気道内に侵入した細菌や埃を排出できなくなること
などによる免疫の低下であるとされています。
主な原因菌は、レンサ球菌です。
治療は適切な抗菌薬の投与と、馬の状態を見て対症療法を行います。
抗菌薬の予防的投与を行うこともありますが、薬剤耐性菌を生じさせてしまう可能性もあるため、無闇に投与するのもあまり望ましくはありません。
有効性を維持するため、馬の状態と状況に応じて、必要であれば投与する、という感じです。
ちなみに牛の輸送熱は、RSウイルスやアデノウイルス、牛パラインフルエンザによって引き起こされるそう。
経済的損失も大きいため、こちらも特に肉牛で、大きな問題となっているようです。
ただし、抗生剤の使用によって腸内細菌叢のバランスが崩れ、抗菌薬関連下痢症を引き起こすこともあります。
また、解熱剤として使用されるNSAIDsの副作用にも、消化管潰瘍があります。
治療は大事ですが、そちらに気を取られて医原性の疾病を引き起こすことがないよう、そして副作用にも注意して行っていかなくてはいけないのです…
往診先の牧場で見かける猫。
「たぬき」と言われていました。
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