潜在精巣(陰睾)
精巣は体温より5°C程低い陰嚢内に存在することで、
精子を産生できるようになります。
しかし精巣は
最初の発生の段階から陰嚢の中でできるのではなく、
胎児の時に腎臓に近い体の中で作られた後、
お腹の中を移動し、 鼠径管を通って陰嚢の中に降りて来ます(=精巣下降)。
この精巣下降は
馬では通常 生まれる1ヶ月前から出生後10日の間に起こるそうです。
ところが、何らかの要因でこのプロセスが上手くいかないと
精巣が腹腔内や鼠径管内に留まったままとなり、
この状態を ”潜在精巣 / 陰睾”と言います。
精巣下降のメカニズムは複雑で、
潜在精巣になる要因も
精巣導帯・精巣上体・鞘状突起など 鼠径部や陰嚢内の発生や発達に異常があったり、
また種々のホルモンが影響していたりと、様々あるとされています。
例えば犬の潜在精巣は、腫瘍化する可能性が
通常に比べて10倍以上も高くなるそうですが、
馬の精巣腫瘍自体が稀で、
潜在精巣と精巣腫瘍発生の関係も明らかになっていないそうです。
しかし潜在精巣でも
雄性ホルモンであるテストステロンは産生されるため、
通常の牡馬同様(もしくはそれ以上の場合もあるそうですが)
ウマッケが強かったり、
ウソかマコトか「調教時に、馬が陰睾を気にしている!」
と相談されることもあったり、
またはっきりとはわかっていませんが
一般的には馬では遺伝的な要因もあると考えられていることから、
馬の潜在精巣は 外科手術で切除するのが一般的です。
(馬でも ごく限られた適応例には
hCGやGnRHを用いたホルモン治療も効果が期待できるそうです。)
潜在精巣がどこにあるかによって アプローチの仕方も変わってくるため、
鎮静下でしっかり触診したり、直腸検査や超音波検査で確認します。
設備があれば腹腔鏡を用いて立位で行うこともありますが、
一般的に手術は全身麻酔下で行います。
(画像:Manual of Equine Field Surgeryより)
外鼠径輪のすぐ近くにあってすぐに摘出できる場合もあれば、
腹腔内にある場合だと 少し手技が煩雑になるようです。
下の写真は、
美浦のA先生のところで見学させていただいたときのもの、
いずれも左側陰睾の症例です。
ちなみに潜在精巣の対処法は
・人間:精巣を陰嚢内に手術で固定する方法
・犬:腫瘍化する可能性があるため摘出する方法
が それぞれ一般的なようですが、
例えば競走馬の片側生の潜在精巣の場合、
「牡馬限定のレースに出るから 潜在精巣だけ摘出して、
正常な方の精巣は残しておいてね!」というケースもあります。
また象の精巣は正常な状態で体内にあるそうです…何故。
不思議な臓器、精巣。生命の不思議です。
たらの白子が美味しい季節になりました。
S